僕の両親はかれこれ30年以上、小さな中華料理店を営んでいる。
火と格闘しながら中華鍋を振る父、客に明るくふる舞いながら忙しく動き回る母。僕はそんな二人の働く姿を幼い頃から真近で見て育ってきた。
それから数十年経った現在、僕はバングラデシュやインドに赴いては造船所、繊維工場、鉄工所など、あらゆる現場で働く肉体労働者の姿を写真に収めている。
2012年の暮れに撮影したバングラデシュのレンガ工場で働く労働者達もその一つである。
急速な経済発展を遂げつつあるこの国は地方から首都ダッカへの人口流入が増加し、この数年建設ラッシュに涌いている。
そのため建設資材となる「焼成レンガ」を供給するためレンガ工場はフル稼働だ。
ダッカ郊外の“アシュリア”地区にあるレンガ工場では雨季をのぞいた操業期間中、季節労働者達が現場に住み込みながら働いていた。
信じられない事だが、その製造過程において重機などの機械が使用される事はなく、全作業を人海戦術で行っている。
21世紀の日本に暮らす僕達にとってそれは前時代的な光景そのものだ。
しかし己の肉体を酷使しながらレンガを作り上げて行くその姿は根源的な「労働」のかたちそのものであると同時に、
労働の中にある喜びや辛さをより鮮明に浮き上がらせる。
彼らをファインダーを通して見つめれば見つめる程「働くとは何か」という命題が僕の心の中に渦巻くのだ。
「全ては家族のために働くのさ」
レンガの粉まみれの男が静かに言いながらにっこり笑った。
彼の表情は一日の仕事を終えたあとの両親のそれと重なって見えるのだった。

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